ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

東京日記(2)『ゴードン・マッタ=クラーク』展、打ち合わせ、OPNトークイベント、ほか

 朝起きるなり衝撃のニュース、「BTSの日本オリジナル曲、作詞が秋元康」にブチ切れ、あとから起きてきた神野さんに怒りをぶつけるなどした。バビロン…… ファック・バビロン……!!!! 日本の音楽業界はもうだめかもしれない。自分たちで作詞も手がけてビルボード・チャートを制覇までしたグループが、日本デビューとなると秋元康大先生に作詞していただくことになってしまうとは。

 やるせない気持ちで向かった東近美、『ゴードン・マッタ=クラーク』展。僕の学部時代の卒論はマッタ=クラークで、大学の2回生かな? くらいのときに知っていらい、僕の中のヒーローだった。でも当時、というと10年くらい前だけど、あんまりマッタ=クラークを知っている人っていなくて、日本語の文献もほんと少なかった。いまだって大して量があるわけじゃないにせよ、東近美で回顧展! しかも、アートプロパーでないメディアにフィーチャーされたりして、けっこうな話題を呼んでいた。ずっと憧れてきたアーティストがついにきちんと全キャリアを紹介してもらえて、かつ人も入っていて、これ以上の喜びはなかった。展覧会としてどう見るか以前に、目の前に広がっている光景が信じられなくて、ほんとうに涙をだらだらと流しながら鑑賞していた。もうほんと、世の中どうなっちゃうんだろう、と絶望することのほうが多いいま、持ち前のユーモアとバイタリティで時代を駆け抜け、この手で世界のかたちを変えようとしたアーティストの勇姿をみただけで、得も言われぬ感動が沸き起こってきた。

 とはいえ、泣けた、まじよかった、かっこいー、みたいで終わるとあれなので書いておくと、会場設計がちょっと演出過剰って気がした。あと、入って最初に紹介される作品が美術館のコミッションワークとかだったりするのが、なんとなく「美術館でマッタ=クラークを取り上げることのエクスキューズ」みたいな感じがしてしまったな。でも、マッタ=クラークをストリートに立つアナーキーで型破りなアーティストとだけ取り上げるのもまあそれはそれで欺瞞で、芸術家の両親(特に父親はシュルレアリストの大物、ロベルト・マッタ)のもとに生まれて、コーネル大で建築を学びつつスミッソンやオッペンハイムと知己を得て、マンハッタンに戻った時期はちょうどアーティストがロフトに住みついてコミュニティができてた頃で…… なんて、生まれも育ちもアートワールドのなかのサラブレッド中のサラブレッドみたいなものだし。

 加えて言えば、作品を見ていけばわかるとおり、ビルディング・カットを試みつつもその成果をギャラリーに落とし込むときにはミニマリズムの彫刻やポップ・アート、あるいはコンセプチュアル・アートボキャブラリーを巧みに用いてプレゼンテーションしていて、かなり優等生という感じがある(それこそ、スミッソンなど先行するアースワーク系のアーティストを範としているのだろうが)。このいい意味での器用さ。業界にも通じつつ、大胆なアイデアと持ち前の行動力で自分の持つ問題意識を次々と具現化していったマッタ=クラークは、だからこそ特異なのだと思う。個人的には、マッタ=クラークをひとりのスターと見るよりも、70年代、ジェントリフィケーションの波にスポイルされきる直前の、ニューヨークのアーティスト・コミュニティの熱気を象徴するアイコンのひとつ、と考えるべきなのではなかろうかという気もする――その意味で、もうちょっと、コラボレーションの側面を強調する箇所があってもよかったか。

 個人的にいちばんぐっときたのは木のドローイングで、有機的な形象が建築空間を思わせる構図のなかにおさめられていくところはロベルト・マッタのペインティングを彷彿とさせた。よかったねえあれ。コレクション展も安定していいもん見れたなーと思った。ジョセフ・アルバースに見入ってしまった。

 その後、編集やってる友人と記事の執筆について打ち合わせがてら、荏開津広さんとお会いした。ブログを読んでいただいているそうで、先日のtofubeats/vaporwave論について少しお話もした。というか、vaporwaveとかも抑えてるのふつーにすげーな… と感銘を受けた。もろもろ話したことはあったものの、記事については後日世に出るし、ほかの件についてもなにかしらアウトプットすることがあると思うので割愛。

 夜はtrialog主宰のOPNトーク。若林さんのイントロダクションでの「きのうのライヴを見ていない方はここで帰っていただくというかたちになりますが……」というジャブにひやひやしつつも、かなり面白い話が連発されていた。個人的に興味深かったのは、ライヴでの映像演出などにあたって参考にしたのがフランク・ステラのシェイプト・カンヴァスのシリーズ《Irregular Polygons》あたりだということで、実際プロジェクションを変形スクリーンに行うなど、方法としてミニマリズムの絵画や彫刻をとりいれているんだな、と思った。ライヴは見ていなかった(ゲンロンカフェにいましたからね…)ので詳しく述べられないけれど、トークで見た記録映像や素材、あるいはこれまでのOPNのビデオなんかを考えると、寓意や象徴に満ちた過剰なナラティヴの印象が強かったのに対して、それをステージ上、会場にインストールするにあたってはミニマリズムの方法論が入ってるんだ…… と驚いた。かつ、ミニマリズムを超越的なものとつながろうとする傾向があるとして退け、繰り返し批判してもいて、なかなか考え甲斐があった。でも肝心のライヴ見てないんで。駄目ですね。こういうのは貪欲にいかないと……

 トーク後、これはと思い、JTNCシリーズなどでお馴染み柳樂光隆さんや、ライターの八木皓平さんなどのご挨拶させていただきました。いやなんかこう、ちゃんと発音しやすい名前をつけないと駄目だなって思った。自己紹介を切り出すときに困る。ぜひお会いしたかった方々だったので浮かれた気分で会場をあとに。

 その後、昼に荏開津さんとひきあわせてくれた友人が呑んでるというので合流すると、7,8年ぶりくらいに会う友人と遭遇。けっこう出来上がっててぶちあがってたけどまさかこんなタイミングで会うとは…… とひとしきり。というかそもそもここに誘ってくれた友人も3,4年ぶりだし他の友人たちも同じくらい久しぶりで、なんなんだこの感じは、同窓会みたいじゃん、と懐かしくなったりまったりしてしまったり。ちなみに7,8年ぶりに会った友人はそろそろ独立するとかなんとかいう話で、いやあ、30も近くなるとみんな凄いなあ…… 田舎でしがないブロガー・ライターやってる自分とはいったい…… となった。凹んではいないけどね。ブログたくさん褒めてもらったし。

 この日は編集の友人宅に収容された。なんかいい家だった。