ただの風邪。

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KREVA『存在感』の存在感

存在感(初回限定盤 CD + DVD)

存在感(初回限定盤 CD + DVD)

 KREVAの新作『存在感』がリリースされた。表題曲「存在感」のMVが先行公開されたときからその歌詞の内容に驚きを覚えるリスナーが数多かったけれど、届けられた5曲はなおさら度肝を抜く内容だった。

 端的に言って、どの曲も情報量が異様に少ない。一曲あたりひとつのトピックについて、あまりにも率直な言葉が繰り返しを恐れることなくずばずばと届けられ、ともすれば情報量をつめこむことに費やされがちだったラップという歌唱法の性格に抗うようでさえある。

 とはいえもちろん近年アメリカを中心としたメインストリームのラップは言葉数を減らすアプローチが主流で、日本でもKOHHを嚆矢としてトラップやレゲトン、アフロビーツ的なトラックの上でゆったりと言葉をあやつるラッパーやシンガーも多い。Playboi Carti『Die Lit』はそのフロウのノンシャランとした雰囲気や反復の多いラインでそうした美学を見事に結晶化させたアルバムと言える。

 あるいは一曲につきひとつのささいなトピックを掲げてそれについて延々ラップする、というスタイルも割と最近よく見るもので、なにをおいてもYoung Hastleの曲を挙げないわけにはいかない。筋トレとかVネックTeeとかバイトしないとかどうでもいい話に異様なディテイルを付け加えることでおかしみを生みつつ、着眼点の一貫性とスキルの点で単にあるあるネタに陥らないラップを披露している。

 とはいえ、やはり『存在感』収録曲のストレートさ、単純さはずば抜けている。KREVAらしい明晰な発音と文法上の破綻のなさは「マンブル・ラップ」とは対極の透明さを誇る。KREVA自身「存在感」を説教ソングと表現しているけれどマジでこっちがいたたまれなくなるくらいに直に胸にくるタイプの説教だ。もうちょっと遠回しにしてほしい。辛いから。

 また、Young Hastleのワントピックものの曲が過剰なディテイルとユーモアでリスナーを惹きつける一方で、『存在感』はそうしたディテイルすら捨て去って言いたいことをずばずばと言って言いっぱなしだ。フックで執拗に同じことを繰り返したうえでヴァースでその補足をするみたいなスタイルなんだけれど、フックを4回も8回も繰り返すわりにヴァースはあっさりとワンヴァースだけ蹴って終わる。

 多分リスナーに対するサービス精神とかはもはやない。言いたいことがあるからラップしているのだ。口をついて出てきた言葉にあわせてトラックをつくってリリックを膨らませていったという制作プロセスも納得だ。

 とはいえこの単純さ――マンブル・ラップ的でもワントピックのユーモアでもない、この単純さこそ『存在感』の軽やかながらも胸にひっかかる絶妙な存在感の源なのだ。