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「ミュージシャンの取り分は12%」、これって少ない?――あるいはミュージシャンの起業家化について

nme-jp.com

 NME JAPANによれば、アメリカで行われた調査で、「音楽産業全体の収益に対するミュージシャンの取り分が12%にすぎない」とする結果が明らかになったそうだ。このデータに対して調査に携わった研究者のひとりは「この数字は「極めて低く」、「信じがたい量が流出している」ことを示している」と指摘しているそうだ。

 とはいえ、12%という数字がこの記事が強調するほどに少ないものかどうかについては即断しかねる。

 もちろん報告書が提唱するような産業構造の転換――メジャーレコードレーベルから配信プラットフォームやプロモーターへの重心の移動――とテクノロジーによる業界全体の効率化によって今後ミュージシャンの取り分が増加していくことはありうるし、まだまだ改善の余地はある。実際、2000年の調査ではアーティストの取り分は7%で、この20年弱で5%ほど増加している。この変化に寄与しているのは、報告書によればコンテンツ主体からライヴなどの経験主体の消費行動への移行だそうだ。

 しかし、SpotifyApple MusicといったプラットフォームやLive Nationのようなプロモーターが疑似レーベル的な役割を担うようになり、お金の流れが効率化され、相対的にミュージシャンが得られる収入の割合がより大きくなったとしても、単に人件費の担い手がミュージシャンへと移行するだけなのではないか? という疑問もある。

 あえて議論を単純化するけれど、現状においてもBandcampであったり、あるいはPatreonのような購読型ファンディングサービスを使って制作活動を続け、完全にDIYに活動するミュージシャンのほうが入るお金が大きくなる可能性は充分にある。Chance the Rapperのようなスターは実際、Soundcloudやミックステープ共有サイトといったインターネット上のサービスを有効活用して現在の地位を築いた。そのうえ、クリエイティヴに対するコントロールはミュージシャンに委ねられるわけで、悪い話はないようにも思える。

 しかし、DIYで活動するということは、アルバムの制作費も、ライヴの制作費も、広報費用も全部自分で管理するということにほかならない。そのためにミュージシャンは自分が信頼できる人材を選り抜いてチームを組み、なかば起業家、あるいは経営者として活動をすることになる。つまりは、いままでレーベルが負担していた金銭的・人的・時間的コストをミュージシャンが負担するようになるわけだ。

 ミュージシャンのクリエイティヴを制限しつつ管理するレーベルの機能が弱体化し、プラットフォームやプロモーターのいち部門に縮小されることになれば、一般的なミュージシャンのおかれる状況は、よりDIYな起業家・経営者としてのミュージシャンへ近づいていくことになるだろう。

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 そうなれば、これまで以上に信頼できるマネージャーやスタッフを抱えることが重要になってくる。日本でいえば、メジャーレーベルに所属しつつ、個人事務所を立ち上げて信頼できるチームで活動を行っているtofubeatsの例は参考になるかもしれない。(参考:tofubeatsが神戸大学で仕事やキャリアについて講義 - FNMNL (フェノメナル))あるいは、ヒップホップにしばしばみられる、ゆるやかなコレクティヴの内部でのコラボレーション(OFWGKTAやYENTOWNみたいな)が、他ジャンルにも広がっていく可能性もある。

 ミュージシャンの取り分を増やしていくことは、すなわちミュージシャンという職業のあり方を変えていくことにほかならない。それは表現者のみならず、起業家としてのミュージシャン、経営者としてのミュージシャンという側面をより強めていくことになるだろう。もちろんそれが良いとか悪いとかいう問題ではない。それでも、単純に「仲介業者を減らしてもっとミュージシャンに儲けさせよう!」という論調に陥ることには疑問を覚える。

 ほかにも、コンテンツ流通やマーチャンダイジングの方法論の変化や、ヴァイラル・マーケティングに見え始めた限界、大規模なスペクタクル化=制作費の増加を伴うライヴ演出の普及など、音楽産業の「支出」をめぐっての変化には大きなものがあって、単純に中間業者を減らしてスリム化すればミュージシャンが豊かになるとは言い難い。ミュージシャンがどのようなスタンスを選ぶか――信頼できるチームを組むのか、業務をアウトソースしていくのか――こそが、検討すべき問題であるように思う。