ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

問題は「ファンに優劣をつけるのは是か非か」ではない。「どうやって優劣をつけるか」だ。(追記あり)

taiiku-cawaii-japan.hatenablog.com

 岡崎体育がファンクラブに新システムを導入するという件で、少し炎上? していたようだ。上掲の記事を読む限りでは、そこまで炎上するような事案とも思えない。「ファンに優劣をつけるのは是か非か」みたいな話については、センシティヴな話題だとは思うが、たとえば会費のランク分けなどはあってもおかしくないし、むしろ「もっと金を払いたい!」という大人に金を払わせる場はどんどんつくるべきだ。

 けれど、導入されるシステムというのを見ると、少し事情が変わってくる。

skiyaki.com

「bitfan」では、ファンクラブへの入会・継続、ファンクラブサイトでのログイン履歴、ECサイトでのグッズの購入状況、twitter等による応援・拡散など、ファンの様々な行動履歴を収集し、独自のアルゴリズムによってファンに「トークン」を付与します。そして、付与されたトークンに基づいて評価したランキングを表示することで、ファンのアーティストに対する熱量を可視化します。
ファンは自分のランキングの順位に応じて、特別な体験を得られる機会を得ることが可能になります。

 つまり、ファン同士がファン活動を通して互いに競い合い、その結果に応じて受けられるサービスが変わってくる、みたいな話だ。実際、岡崎体育の新しいファンクラブのウェブサイトを見ると、以下のようにある。

Wallets有料会員の皆さまの行動が毎日「ポイント」として加算されていきます。
ポイントに応じて、「Wallets会員 ランク」が変動し、ランク上位者にはbitfanだけの特別な体験、特典をプレゼント!

 ということは、「払ったぶんだけ返ってくる」タイプの特典とは異なり、ファン同士の競争を前提とした特典になるわけだ。しかも、その競争は「独自のアルゴリズム」によって算出された「トークン」に基づくから、たとえば握手券みたいな透明性(CD一枚につき一枚)はない。この点についての批判はすでにあるようで、岡崎体育も前掲のブログのなかで「定額等価交換じゃない不透明な物差しでレースさすな!」という批判があった旨言及している。

 しかし、岡崎体育はこの批判をしっかりと認識していないのか、自分のファンクラブが導入するシステムを「握手券やハイタッチ券が入った同じCDを複数購入して、イベントに参加できる回数を増やしたりとか、クラウドファウンディングで多額の投資をして目的の人物と食事する権利を得るとか」と同列に並べ、単に音楽産業の現状をシステムに組み込んだだけだと主張する。そして、「ファンに優劣をつけるのは是か非か」というあいまいで情緒的な問題について語り始める。

 bitfanは「握手券やハイタッチ券目当ての複数購入」や「リターンを明示したクラウドファンディング」とはまったく異なる。握手券やハイタッチ券、クラウドファンディングにおいても「ファン同士の競争」というのは起こりうる。しかし、それはあくまで等価交換という前提や希少性に基づく明確な価値付けがあってのことだ。bitfanが提供するのは、不透明で、天井が見えない、ファン同士の過当競争を招きかねないシステムだ。自分が上客か否かが相対的な評価に依存し、自分の払った対価という絶対的な基準から離れてしまうのは果たして健全なのか。

 「ファンに優劣をつけるのは是か非か」と言われたら、僕は迷うことなく是だと言うだろう。しかし、そのやり方が問題なのだ。ファン同士の競争を煽って互いに優劣をつけさせるというのがいいはずがない。まして、その指標が透明性に欠くものだとすれば、批判せざるを得ない。

 複数購入をファンサービスの前提とするようなやり口は日本の音楽産業を歪めてしまった――いやもちろん功もあろうが、罪も大きい。それはコンテンツを売る側の認識も歪めたし、買う側の認識も同じくらい歪めてしまった。自分はその歪みを正す方向に世の中が進んでいって欲しいと思う。つまり、コンテンツには適切な対価を払い、作り手も受け手も不当な損をしない、そういうエコシステムの実現だ。それを考え出せるほど自分は賢くはないし知見もない。しかしbitfanは果たして歪んだ音楽産業の未来を「まとも」に戻してくれるだろうか?

 僕はそれに否定的だ。このシステムは、いわゆる「AKB商法」が開いた扉のさらにその先にある泥沼に、ファンたちを叩き落としはしないだろうか。これまで間接的に、暗黙のうちに行われてきたファン同士の競争を、商売の原理にしてしまうことは、音楽産業をさらに歪めることにはならないだろうか。そんな疑問が頭をもたげる。もちろん、運営側とファンたちのあいだにほんの少し、適切な良心さえあれば、このシステムはうまくいくだろう。しかし、人間の良心に頼ったシステムがいかに脆弱なことか。

昨今の音楽業界では当たり前のようにファンが個別で投資対効果を得られるようになっています。
[…]今回僕はそういった状況をシステムとして明言しただけのことなのかなとも思っています。

 岡崎体育はこう言うけど、音楽業界の現状を追認して、それを加速させるだけなら、そんなシステムはないほうがマシなんじゃないのか?

追記

 という指摘がTwitter上であった。言わんとすることはわからないではない。しかし、bitfanのシステムが過熱するファン心理を正気に戻す作用があるなどという保証はどこにもない。それはあまりにも楽観的な見方だと思う。このシステムは単に過熱するファン心理から利益をかすめとる手段をコンテンツ供給側に与えるだけじゃないだろうか。ランキング化の指標もどれくらい透明性があるかはわからないし、岡田さんが想定するような都合の良い作用は起こらないだろう(逆に言うと、僕が懸念するような事態もそうそう起こらないとは思うのだが、なにごとも最悪の事態を想定するのは大事だ)。

 暗黙のうちにファン同士が競争するのは別に勝手にすればいい。どんな仕組みつくったってそれは起こりうる。それを抑止しようというのではなくてそこから利益をかすめとろうっていう魂胆が醜悪なのだ。「ファン同士の行き過ぎた競争」という現象があったとして、それを止めるシステムではなくて、それを搾取しようとするシステムを考えついて、それをイノベーションでございみたいにプレゼンするのはまったく詐欺的だ。