ただの風邪。

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Major Lazerのキューバ公演を追ったドキュメンタリー『Give Me Future』を見るべき理由

 2016年、アメリカとキューバの国交が正常化し、両国の交流が再び始まった。この歴史的なタイミングにいちはやくのっかったのが、プロデューサー/DJのDiplo率いるMajor Lazerだった。彼らはキューバはハヴァナにて、米国人アーティストとして国交回復後初めてコンサートを開催したのだ。

 入場料無料で行われたこのコンサートに訪れた観客は、40万人にも及ぶ。たしかに彼らはダンスミュージックのアクトとしてはトップクラスであり、MØをフィーチャーした“Lean On”のような一大ヒット曲を持ったドル箱グループだ。

 しかし、長らく海外からの情報の流入を制限してきたキューバという国でこれほどまでの熱狂に迎えられるとは、彼ら自身も思っていなかったのではないか。――このコンサートがいかにして実現したか、この成功の影にはどのような背景が隠されているのかを追ったドキュメンタリーが、『Give Me Future』だ。現在、Apple Musicで独占配信されている。

 このドキュメンタリー、単なるコンサートの記録にとどまるものではない。というか、コンサートの実際の映像はさほど多くない。見どころは他にある。

 もちろん、第一に興味深いのは、Major Lazerがハヴァナ公演を実現するまでのプロセスだ。面白かったのは、必要な機材をほとんど現地で調達した、ということ。他の国と違い、共産主義国であるキューバでは、ふつう西側の先進国で借りれたり、買えたりする機材もなかなか入手することができない。それでもなお現地調達にこだわるのは、プレハブ小屋を建てるように出来合いのセットを持ってきて、そのまま持って帰るような真似はしたくない、という彼らの意思の現れだ。同じくキューバ公演を控えていたローリング・ストーンズを一蹴し、自分たちのコンサートにこそ今やる意義があるのだと語るメンバーたちの姿は誇らしげでもある。Diploといえば、フェスの出演を蹴ってまでアフリカ・ツアーを敢行したその道中がGQによってレポートされたばかりだが、彼の周縁的な音楽シーンに対する敬意と熱意は本物だと思える(Diplo’s Epic Africa Tour: Our Exclusive Diary | GQ日本語版(抄訳)はこちら。とはいえ、当然ながら多忙な彼は十分な時間を交流やリサーチにかけているとは言い難く、「文化的盗用」の誹りを受けてしまうのもやむを得ないのだが)。

 次に面白いのが、キューバ全土にネットワークを持つ海賊版組織のトップが登場し、そのシーンについて詳しく語られることだ。インターネットはかろうじて普及していても、情報統制下にあるキューバでは、海外の情報に触れることが極端に難しい。それゆえ、海賊版組織を運営するということは、国家による情報網の独占に対するレジスタンスという色彩を帯びる。インターネットを大々的に使うことが難しいために、海賊版組織はストレージを手から手へコピーしながら人々へコンテンツを届けてゆく。こうしたオフラインでのやりとりにもかかわらず、新しいコンテンツはあっという間にキューバ全土に届けられる。この情報網の特異さに目をつけたNetFlixが、そのノウハウを得るためにわざわざ海賊版組織のトップとコンタクトをとろうとしているほどだという。そうしたキューバのコンテンツ事情を見るだけでも興味深く、胸を打たれるところがある。なにしろこのトップは、チェ・ゲバラを最も尊敬する人物に挙げるような若者なのだ。

 その他、現地のミュージシャンとの交流や、コンサート開始直前に暴動寸前の様相を見せるオーディエンスの姿、コンサート中も繰り広げられる政府との静かな駆け引きなど、見せ場には事欠かない。個人的に一番笑ってしまったのは、毎度ライブセットでは鉄板のHouse of Pain / Jump Aroundがハヴァナのオーディエンスの前ではだだすべりしてしまったというくだりだ。キューバがいかに文化的な断絶の渦中にいるかを象徴する瞬間だと言える。それになにより、さすがのMajor Lazerもスベるのだ。そこがいい。

 90分足らずと尺も長すぎないので、Apple Musicに加入している人は是非見てみて欲しい。日本語字幕をつけることもできるので、そこは安心。もし加入してないなら、この際使ってみてはどうだろう。無料期間もあるし、見てすぐ解約したらタダだよ。