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「インターネットの王様は継続的なコンテンツだ」――密かに帝国を築くアーティストたちと、Jack Conteの起業家精神に学ぶ

f:id:tortoisetaughtus:20170714191638j:plain 記事後半で取り上げるPomplamoose。見目麗しいNataly Dawnと髭面のナイスガイJack Conteの二人組。

caughtacold.hatenablog.com

 昨日のエントリ(上掲)に引き続いて、インターネットと音楽の込み入った関係について。昨日のエントリでは、SoundCloudの経営危機に見る「音楽をシェアする」サーヴィスの難しさと、クロスメディア・プラットフォーム化する人気YouTubeチャンネルについて書いた。おおざっぱにまとめれば、作り手と聴き手のあいだを仲立ちするサーヴィスやメディアの現状というのが昨日のテーマだった。ひるがえって今度は、個人単位でインディペンデントに活動するアーティストたちや、彼らを応援する人々の視点に切り替えてみる。

地道でコンスタントな活動こそが評価される、インターネットのファンダム

playatuner.com

 playatunerというメディアに昨日付けでこんな記事が掲載されていた。昨日の記事を書いていた段階では知らなかったけれど、まさしく今日書こうと思っていた内容とシンクロするものだった。

世の中には「気がついたら水面下でめっちゃ売れていた」というアーティストが存在するのだ。自分でほぼ全ての作業をやり、少数で動き、徐々にネットでファンを獲得していく。一般世間が気がついた頃にはもう追いつけないレベルのファンベースを築いているのだ。

 バズを起こすでもなく、アーティストやレーベルからフックアップされて脚光を浴びるでもなく、「気がつけば売れていた」アーティスト。その正体は、巧みなメディア戦略をよしとするよりも、YouTubeSoundCloudを通してコンスタントに楽曲やミックステープ、アルバムをリリースしたり、あるいはライヴを定期的に欠かさず行うことで、自分の音楽をただ地道に人々に届けることに励んだアーティストだと言って良いだろう。たとえば冒頭で取り上げられているBlackbear。彼はSpotifyでの再生回数やマーチャンダイズでの売上を相当稼ぎ、大きなファンダムを築いているというが、メディア上で目立ってバズっているわけでもないそうだ。

彼の特徴としては、やはり自分の寝室で曲を作り、ミックスやマスタリングも自分でやっていたということだ。ビルボードチャートにて1年間もチャートインし、ゴールド認定された「idfc」は、まさに彼のベッドルームで制作されたものであった。「自分が1人で家で作った曲がこんなに聞かれてるのは凄いことだよ」と語っており、驚いたことにMVなどもほぼ出していない。

 プロモーション活動のYouTube一極化という話題を昨日のエントリで取り上げられたけれど、MVのような主要な動画コンテンツもなく、インディペンデントなアーティストが着々とキャリアを積み上げてきたというのは驚嘆に値する。もちろんその伏線として著名アーティストとの共作などもあったとはいえ、いかにメディア露出を増やし、SNSでバズるかというようなプロモーションとは一線を画している。その次に取り上げられているRussのストーリーも凄い。

彼はレーベルの手助けがない状態で、11個のアルバムをリリースし、サウンドクラウドで毎週1曲を公開し続けた努力家である。さらにライブも欠かさずに、50人しかいなかった客が2年間の間に数千人規模まで増えた。

 同記事では、とにかくコンスタントにリリースすること、他のアーティストによるリミックスやファンによるシェアに寛大であることがこうした成功の秘訣ではないかと示唆している。個人的に付け加えれば、こうした活動が可能になるのも、昨日言及した「音楽の流通経路の多様性」が確保されているからにほかならないと思う。それゆえSoundCloudの危機はなおさら憂鬱を呼ぶのだけれど。「一人で全部やる」スタイルのアーティストはどんどん増えていくだろうし、あるいは地縁的な繋がりによる互助的なコレクティヴがより重要になるだろう。Odd Future周辺から派生したアーティストたちのつながりや、Chance the Rapperというスターを産み、Nico SegalやJamira Woods、Nonameといった注目アーティストを発信するシカゴのシーンはその象徴と言える(その意味でNonameはちょっと同記事の趣旨からは外れるようにも思うがどうだろう)。

Scum Fuck Flowerboy

Scum Fuck Flowerboy

Odd Futureと言えばTyler, the Creatorの新譜出ますね。楽しみ

 しかし、地道で継続的な活動が成功の秘訣と言われても、現実には「生活」という大きな壁が立ちはだかっているわけで、並大抵の努力ではこうした成功は手に入れられないだろう。YouTubeの広告収入で生活できるようになるなんていうことはもっと狭き門だ。また、聴き手の側からしても、YouTubeSpotifyといったサーヴィスを通しては直接アーティストを支援することができないというネックがある(僕がBandcampで音源を買うのを好むのは、アーティストによりダイレクトにその支援が届くからだ。望むなら、価格を上乗せだってできるし)。継続して活動を続けたい作り手と、そんな彼らをサポートしたい聴き手をインターネット上でつなぐ場があれば……。

 と、煩悶しながらYouTubeを見ていると、まさにそうした場を提供するサーヴィスを、多くのYouTuberが利用していることに気づく。「継続型クラウドファンディング」とでも言うべきそのサーヴィスの名はPatreon。前々から面白いサーヴィスだなーと思っていたのだけど、この間改めて調べてみて、共同創業者の名にびっくりしてしまった。

人気YouTuberからアーティスト、そして起業家へ:Jack Conte(Pomplamooseメンバー / Patreon創業者)に学ぶ

www.patreon.com

 前項でも言及したように、Patreonが提供するのは一種のクラウドファンディングだ。しかし、Kickstarterのような既存のクラウドファンディングがプロジェクトベースで投資を募るのとはちょっとわけが違う。Patreonはクリエイターの活動に対して、作品単位か、ないしは毎月一定額ずつ支援していくという投資スタイルをとっている。クリエイターはその見返りに、支援額に応じたエクスクルーシヴなコンテンツを提供したりする。利用しているクリエイターの幅はとっても広い。DIY1のYouTuberからASMR系2のYouTuber、ゲーム実況者、イラストレーター、ソフトポルノやフェティッシュ動画の作り手などなど。2013年に立ち上がったこのサーヴィスは順調に業績を伸ばしているらしく、現在の利用者は5万人以上のクリエイター、そして月当り100万人のパトロン(出資者)を数えるまでに成長している。

 創業者は、Jack ConteとSam Yamの二人。え? Jack Conteって…… と思って調べたら。やはりあのJack Conteだった。“VideoSongs”というユニークでポップなオーディオヴィジュアル作品をリリースして知名度を挙げた人気音楽ユニット、Pomplamooseの片割れだ。彼らの熱心なファンならばもしかしてとっくに常識というか、周知の事実だったのかもしれないけれど、恥ずかしながら割に長いことPomplamooseの活動をフォローしていたにもかかわらず、彼がPatreonの創業者だということは知らなかった。いや、もっぱらNatalyの活動ばっか追ってたせいという説もあるけど…… とにかく驚いた。

 PomplamooseがつくるVideoSongsとは、レコーディングの様子を収めたフッテージを組み合わせて、一切の吹き替えやあてぶりなしで一曲を仕立て上げる、とってもスマートかつユニークな作品たちだ。ポップ・ミュージックの名曲をこの上なくキュートなアレンジで聴かせ、魅せる彼らのプロジェクトはいつ見ても本当に面白い。チャンネルにアップロードされている作品は残らずチェックした方がいい。ついでにJack ConteNataly Dawnおのおののチャンネルもチェックすべし。彼らこそまさに、魅力的なコンテンツを継続的に提供しつづけることで着実にファン層を拡げていったアーティストの先駆けだ。

比較的近年の作品で、Wham!のカヴァー。Natalyの魅力が全面に押し出されていて「ああ! ナタリー!」となる(?)

Edith PiafのLa Vie En Roseをカヴァーした比較的初期のVideoSongs。まだ編集がせわしく、ちゃかぽこしているのが楽しい。

Pomplamoose Live

Pomplamoose Live

ツアーも何度かやっていて、ライヴ・アルバムも出してます。

 そんな活動をしてきたJack ConteがPatreonを立ち上げるに至ったのも納得できる。たとえば、2014年のインタヴューで彼はインディペンデントなミュージシャンをこんなふうに激励している。

レコードレーベルにビジネス面を任せてしまわない限り、もうただのミュージシャンでいるだけでは済まなくなっているんです。成功するミュージシャンは起業家です――みんなめちゃくちゃ働いて、9時5時なんて気にしない。彼ら動画の撮影から編集までを学んで自分たちのヴィデオをつくってしまうし、音楽制作ソフトの勉強をして自分たちだけでレコードをつくる。
(中略)
いますぐ始めましょう。どうすればいいか読んで勉強するのはやめて、実際にやってみることです。曲を録音して、発表して、フィードバックを貰う。それを100回以上繰り返すんですよ。3

 そして、2013年、Patreon立ち上げ当時のインタヴューではこうも言っている。

インターネットの王様はコンテンツじゃありません。[…]継続的なコンテンツです。けれど、Kickstarterのようなモデルは継続的なコンテンツには向きません。また、YouTubeからの広告収入はなかなかですが、ある種のコンテンツに注がれる仕事や熱意の量に相応しい価値がつけられているようには思えません」4

 アーティストとしての立場から言えば、とにかくインターネットを使って作品をコンスタントに発表して、自分たちでなんでもやれるようになる必要がある。けれど、ビジネス面から言えば、そうしてかけたコストに見合うだけの報酬を得るのはなかなか難しい。そのギャップを埋めるため、アーティストの継続的な活動を気軽に支援できるPatreonを立ち上げた、というわけだ。

 当初はコンテンツが発表される度に投げ銭のように支援する形式を採用していたPatreonだが、いまは毎月ごとのサブスクリプションのように支援するという形式も併せて採用している。クリエイターは月ごとに自分の制作するコンテンツに割くことができる資金を確保でき、投資額に応じた投資者へのオプションを提供する必要もあるので、コンスタントな活動に対するモチベーションも上がることになる。

DIY系YouTuberの大御所、Jimmy DiRestaもPatreon利用者。ちなみにDiRestaのYouTube上のメーカーズコミュニティに対する影響力は凄い。“DiResta inspired”で検索してみるべし

 これはなかなかよくできたエコサイクルだと思う。なにより、ソーシャルメディア上のバズやメディアへの露出を気にすることなくクリエイターは活動に専念できるし、受け手も1ドルから気軽にクリエイターを支援できる――そのうえ、エクスクルーシヴなコンテンツも手に入れられる。また、インターネット全体から見ても、プロジェクト単位で打ち上がっては散っていく花火のような単発のコンテンツや、瞬間風速だけ気にしているようなクリック・バイトまがいの使い捨てコンテンツではなく、地道な活動による「継続的なコンテンツ」が増えていくのは好ましいことだ。その意味で、「インターネットの王様は継続的なコンテンツだ」というのは単にビジネスで勝つためのモットーではない。インターネットが育む文化そのものを継続的で息の長いものにするために不可欠な理念なのだ。

 管見の限り、国内には類似のサーヴィスが見られないように思う(ドワンゴのブロマガが近いといえば近いか)。プロジェクト支援型でもなく、散発的なカンパ型でもないようなクラウドファンディングにはちょっとした可能性を感じるのだけど…… どうだろうか。少なくとも、V█LUなんかよりもよっぽど現実的な需要があると思う。

enty.jp

 日本にもふつうにありましたわいな、クリエイター支援型クラウドファンディング! イラストレーターが目立つけど、広いジャンルの人に使われてるといいなー、ちょっと調べてみよう。(7月16日追記)

おわりに

 以上、散漫ながら、SoundCloudの危機をきっかけとして、インターネットと音楽の複雑な関係性について、その現状をつらつらとまとめてみた。これといった提言はないけれど、むしろ2つの記事で紹介してきた個々の事例に、みなさんなりの可能性を感じてくれれば、と思う。現場(a.k.a.ベッドルーム)からは以上です。


  1. YouTubeDIYというとライフハック系のチャンネルも多いが、ここではガチの木工や鉄工、手仕事系のチャンネルを指す(って、個人の趣味だけど)。エクストリームDIYチャンネルとしてあらゆるチャンネルから一線を画すPrimitive Technologyもそこに含まれる。

  2. ASMR系というのは端的にいうと「音フェチ動画」のことで、その正式名称はAutonomous Sensory Meridian Responseだとかなんとか。この微妙にもっともらしい名前がもたらす胡散臭さも含めていい感じのヴァイブスを発しているジャンル。ロールプレイものも多くて、しばしばセクシャルな含みもあったりする(そのへんは邪道だと言う人もいそうだけど)。

  3. A Chat With Jack Conte, Musician And Entrepreneur | TechCrunch(拙訳、強調は原文に従った)

  4. Jack Conte’s Patreon: Anyone Can Be a Patron of the Arts | Billboard(拙訳、こちらの強調は筆者による)