ただの風邪。

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サンクラ危機と人気YouTubeチャンネルから見る、インターネットと音楽の複雑で明暗入り交じる現状と未来

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沈みゆくSoundCloud、この秋が正念場

 SoundCloudがいよいよヤバいと目下の話題だ。

jp.techcrunch.com

 一年前にも身売りの噂が立ち、経営に暗雲が立ち込めていたSoundcloud。いったんは明るい兆しが見えてきていたような気がしていたのだけれど、ふと調べてみると、年頭には2017年内に現金が枯渇する可能性があるとの報道があり、この段階で人材獲得への過剰な投資を指摘されていた。その結果が先日発表された全体の40%に及ぶ従業員の解雇だったのだとすれば、「経営陣なにやってんの」というツッコミとともに「もうこりゃ潮時だな」という空気が漂っても致し方ないところがある。日本語訳では省略されているものの、TechCrunchは、成長の見込みのないうえにロイヤルティばかりがかさむGo+(SpotifyApple Musicと競合するような定額ストリーミングサーヴィス)ではなく、クリエイターのためのプラットフォームという原点に回帰することが必要だとの見方を示している(原文はこちら)。実際僕も、ユーザーがSoundCloudにもとめている役割は、アマチュアやセミプロ、インディペンデントのクリエイターたちが自由に作品を発表できる場の提供だと思う。それは作り手ばかりではなく聞き手にとっても同じことで、SoundCloudをディグする楽しみというのはApple MusicやSpotifyで新譜をチェックするのとはまったく違うものだ。また、TechCrunchも指摘していることだけれど、このままSoundCloudが消滅してしまえば、名も無き作り手たちが築いてきた膨大な音源のアーカイヴを無に帰してしまうことにもなる。これは大きな損失だ――Internet Archiveあたりがまるごと譲り受けたりしないものかと思う。冗談だけど。

 いずれにせよ、もしSoundCloudのサーヴィスがちかぢか停止してしまうということがあれば、アマからプロに至るまで音楽マーケティングの中心はますますYouTubeへと一極化していくことだろう。思えば不思議なことに、テキスト、画像、動画を手軽にシェアするウェブサーヴィスは、順風満帆とはいかなくともなんだかんだで生きながらえている。にもかかわらず、音楽(というより音声)に限ってはそうしたシェアサーヴィスがなかなか持続しない。Bandcampは例外的に非常に優秀で柔軟なサーヴィスだといえるけれど、たとえば30秒のスケッチをさらっと録音してアップロードするにはあまりにも手続きが多すぎる。そんなことなら、ウェブカムやアクションカムで一発撮りした動画をYouTubeにアップしたほうが早い。以前もこのブログで言及したことがあるけれど(以下の記事)、こうした傾向はあまりいいことだと思えない。音楽が流通する回路はできるだけ多様であったほうが良い。たとえば、ちょっとしたスケッチから莫大な資金を投入したポップ・ミュージックに至るまで、すべてがGoogleAppleSpotifyに管理されるような世の中が来たらと思うと寒気がする。いや、それなら事態はまだマシで、そうした企業の用意したネットワーク上に流通する音楽だけが音楽とみなされるような世の中になったら、これはもうディストピアだ。

caughtacold.hatenablog.com

人気YouTubeチャンネルのメディア・プラットフォーム化

thump.vice.com

 そんな景気の悪い話とは裏腹に、Viceの運営する音楽情報メディアであるthumpにはなんだか景気の良い話が載っていた。EDMを中心としたダンス・ミュージックに関心を寄せる人ならば、やたらと目につく音楽系YouTubeチャンネルがいくつか思い浮かぶはずだ。UKF DubstepTrap NationProximity、あるいはMajestic Casualなどなど。thumpは、こうした音楽系YouTubeチャンネルがいかにして成長を遂げ、マーケティングに欠かせないインフルエンサーと化したかを、チャンネルの運営者への取材を通して浮かび上がらせている。みんな始まりは「著作権? なにそれ?」状態で、ただ自分の好きな音楽をシェアしたくてアップロードを続けていただけだった。しかし、時流に乗ってか、チャンネル登録者数はうなぎのぼり。音楽をアップロードして紹介する、という行為がシーンに対するある種の貢献を果たしていることに気づき、その成長にアーティスト側もその功罪の功の面を無視できなくなったために、単なるYouTubeチャンネルを越えたメディア・プラットフォーム化が進んできているそうだ。

Trap Nationで独占公開された、人気EDMアーティストMarshmelloのビデオ。

Proximityでは、Justin BieberをフィーチャリングしたDJ Snakeの楽曲のリリック・ヴィデオを独自に公開して話題となった。

 実際、YouTube上にあふれる類似音楽チャンネルの多くは権利関係とかさほど気にしていないふうのものばかりだけれど、この記事で取り上げられたようなチャンネルはいずれもエクスクルーシヴ・コンテンツを持っていたり、リリック・ヴィデオやMVを先行配信したりとマーケティング上重要な役割を果たしているように見える。YouTubeにおけるマーケティング戦略も、単に公式動画をアップするだけにとどまらず、多様化しているわけだ。Instagramなんかにおける、いわゆるインフルエンサーマーケティングに近いものがあるけれど、チャンネル運営者側が起業家精神を持ち始めている点は注目に値すると思う。

シャレオツなEDMやチルいダンス・ミュージックなんかを発信していたMajestic Casualは、独自のセッション・シリーズを開始。ベルリンのスタジオにバンドを招聘して演奏を収録、公開している。

 その点、YouTubeを主な拠点として情報発信を続ける88risingは、あらかじめ起業家精神に満ちた野心的なメディアだった。独自コンテンツを戦略的に仕掛けてソーシャルメディア上のバズを呼び、“88rising”が果たして何者なのか――レーベルなのか、プロダクションなのか、単なるYouTubeチャンネルなのか――もわからないうちから、広い意味でのアジアン・カルチャー、つまりグローバルに展開するアジア系の人々がつくりだす文化に関心を持つ人々の注目を集めていた。わりと早い段階で主催のSean MiyashiroはForbes誌のインタヴューに応え、だいぶん謎は解けてはいたのだが、それでも扱う話題の突拍子もない幅広さや、YouTube以外での露出をほとんどしない一貫性は、適度な神話性を88risingに与えている。

88risingでつい先ごろ公開された、チャンネルの顔とも言えるjojiとHigher Brothersのコラボ曲。6月にリリースされたHigher Brothersのアルバム《Black Cab》は必聴。

 あらゆるコンテンツのプロモーションがYouTube上に一極化されていく一方で、YouTubeを出発点としつつも、様々なメディアを横断するプラットフォームとして各チャンネルが力を持ち始めているという状況は、それはそれで興味深い。

 一方で、YouTube上でインディペンデントかつ小規模に活動するクリエイターたちはどうなるのか? というと、これはこれで難しい問題だと思う。というのも、現状、YouTubeを通してクリエイターに直接対価を支払ったり、その活動を支援する方法はないからだ。これにもまた興味深い動きや繋がりがあるので、記事を改めようと思う。先に概要だけ言っておくと、持続型クラウドファンディングという新しいエコノミーがそこそこ軌道に乗っている、という話だ。それにまた面白い人が絡んでいるので、詳しく書きたい。というわけで、続く!↓↓↓

caughtacold.hatenablog.com