ただの風邪。

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そのミュージックビデオ、誰に届けるつもりなの?

 今朝目を覚ますと、くるりの岸田氏がこんなツイートをしていた。

 海外のリスナーに向けてビデオをつくっても、日本のレコードレーベルにいるとYouTube経由での発信ができない。たとえアーティストが望んでも、だそうだ。これを受けて、ゲントウキの田中氏が連ツイを投下。

 ほかにもいろいろと興味深いこと(海外の邦楽好きはどうやって音源を手に入れているのか? とか)が挙げられているけれども、詳しくはモーメントにまとめられているのでそちらを参照されたい。

 しかし、そもそも「日本のミュージックビデオ(以下、基本的にMVとする)が海外で見られない」どころか、「日本のMVがろくすっぽYouTubeにアップロードされていない」じゃないか、ということを言わずにはおれない。海外の人が見れないなんてのんびりした話ではなく、日本国内の人でさえMVを視聴する方法は限られているのだ。「聴きたい曲をYouTubeで検索をかけると『歌ってみた』ばかりがひっかかる」なんて嫌味が聞かれるようになってひさしいけれど、そもそもYouTube上にオリジナルが存在しないんだからしょうがない。

 いや、もっと正確に言えば、そしてこれがまた印象が悪いことに、公開されているにはいるのだが、「ショートバージョン」という2分程度に切り詰められた動画ばかりなのだ。しかもその多くは、ラジオエディットのように曲の体裁を保ちながら短く編集したものでさえなく、単に時間がきたらフェードアウトするだけのものだ。前々からこの「ショートバージョン」というおためごかしにはうんざりしている。単に尻を切ってるだけじゃないか! こんな謎の習慣が根付いているのは日本くらいだろう。海外ではMVの解禁=YouTube上での公開だし、MVの公開から数ヶ月から半年前に特別に制作したリリックビデオを公開するのも当たり前になっている。わざわざ妙な出し惜しみをしているような国は管見の限り他にない。

 言うて、最近は結構フルバージョンが公開されるようにはなってきている。もしかしたら状況は結構改善しているかも、と思ってひとまず2月13日付けのオリコンデイリーシングルランキングトップ10を調べた結果が以下のとおり。○はPVがフル視聴可能、△はショートバージョンのPVが視聴可能、▲はショートバージョンの音源が視聴可能、×は公式音源なし。ファンが違法にアップロードした音源はカウントしていない。

順位 アーティスト名 曲名 発売日 レコード会社 YouTube
1 NMB48 僕以外の誰か 2016年12月28日 laugh out loud records
2 NEWS EMMA 2017年2月8日 ジャニーズ・エンタテイメント ×
3 城ヶ崎美嘉(CV:佳村はるか),神崎蘭子(CV:内田真礼),前川みく(CV:高森奈津美),二宮飛鳥(CV:青木志貴),一ノ瀬志希(CV:藍原ことみ THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER EVERMORE 2017年2月8日 日本コロムビア
4 渡良瀬橋43(大塚みか/Runa☆Rina) STARLIGHT/星を探して/真夏のレモン 2017年2月14日 インディーズ・メーカー △(1,2
5 V.A. THE IDOLM@STER SideM「Beyond The Dream」 2017年2月1日 ランティス
6 グリーンボーイズ 声/道/キセキ 2017年1月24日 エピックレコードジャパン
7 AAA MAGIC 2017年2月8日 エイベックス・トラックス
8 欅坂46 二人セゾン 2016年11月30日 ソニー・ミュージックレコーズ
9 城ヶ崎莉嘉(CV:山本希望),緒方智絵里(CV:大空直美),北条加蓮(CV:渕上舞),川島瑞樹(CV:東山奈央),大槻唯(CV:山下七海 THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 08 BEYOND THE STARLIGHT 2017年2月1日 日本コロムビア
10 星野源 2016年10月5日 ビクターエンタテインメント
11 福田こうへい 母ちゃんの浜唄 2017年2月8日 キングレコード ×
12 UVERworld 一滴の影響 2017年2月1日 ソニー・ミュージックレコーズ
13 関ジャニ∞ なぐりガキBEAT 2017年1月25日 インフィニティレ・レコーズ ×
14 三山ひろし 男の流儀 2017年2月8日 日本クラウン
15 Mr.Children ヒカリノアトリエ 2017年1月11日 トイズファクトリー
16 島村卯月(CV:大橋彩香),渋谷凛(CV:福原綾香),本田未央(CV:原紗友里),赤城みりあ(CV:黒沢ともよ),安部菜々(CV:三宅麻理恵 THE IDOLM@STER CINDERRELLA GIRLS VIEWING REVOLUTION Yes! Party Time!! 2017年1月25日 日本コロムビア
17 天童よしみ 夕月おけさ 2017年1月18日 テイチクエンタテインメント
18 MYTH & ROID JINGO JUNGLE 2017年2月8日 KADOKAWA
19 丘みどり 佐渡の夕笛/雨の木屋町 2016年10月5日 キングレコード
20 10-FEET ヒトリセカイ×ヒトリズム 2017年2月1日 ユニバーサルミュージック ○(1,2
21 竹島 月枕 2017年1月25日 テイチクエンタテインメント
22 沼倉愛美 Climber’s High! 2017年2月8日 FlyingDog
23 欅坂46 サイレントマジョリティ 2016年4月6日 ソニー・ミュージックレコーズ
24 イトヲカシ さいごまで/カナデアイ 2016年4月6日 エイベックス・トラックス
25 TrySail オリジナル。 2017年2月8日 アニプレックス
26 Happiness REWIND 2017年2月8日 rhythm zone
27 乃木坂46 サヨナラの意味 2016年11月9日 ソニー・ミュージックレコーズ
28 三浦大知 EXCITE 2017年2月8日 キューンミュージック
29 FLOW INNOSENSE 2017年1月18日 SONIC GROOVE
30 [Alexandros] SNOW SOUND/今まで君が泣いた分取り戻そう 2017年2月1日 ユニバーサルミュージック

 MVをフル視聴可能なのは30曲中8曲にすぎない。なんなら、トップ5はすべて△/▲/×だ。チャートインしているアイマスの楽曲はすべてPVなしの短縮音源だけれど、プレイするゲームそのものがMVみたいなものだから、存在しなくても当たり前ではある。変わり種が星野源の“恋”で、曲中でCDの特典DVD予告編が挿入される。しかし曲そのものはBGMとして流れているし、なによりわざわざ星野源が顔出ししてくれているので、ファンにとっては単なるフルバージョンよりも嬉しいかもしれない。

 ともあれ、「試聴できるだけいいじゃないか、気に入ったら買えばいいんだし」と言われるかもしれない。それはその通りで、なんでもタダで見られるようにするべきだと言いたいわけでは決してない。のだが、僕が疑問に思うのは、以上のように邦楽シーンに氾濫するおざなりな「ショートバージョン」は、ミュージックビデオというコンテンツをつくる人たちに対して不誠実ではないのか、ということだ。

 考えても見て欲しい。YouTubeにアップロードされるのは尻切れトンボのショートバージョン。地上波でフルバージョンのMVが流されることはほぼない。誰も彼もがCS放送に加入しているわけでもない(あ、最近はAbemaTVがあるか。それはさておき)。となると、ミュージックビデオを法に触れずに視聴しようと思えば、DVDか、DVD付きのCDを買うほかないわけだ。しかし周知の通り、CDの売上は絶望的なまでに下がっている。昔のように数十万、数百万単位で売れることなどそうそうないし、しばしば4桁程度しか売れないこともままある。すると、ショートバージョンという不完全なおためごかしのコンテンツが数万再生されているのに対して、肝心のフルバージョンを正当な手段で視聴できるのはたかだか数千人とか、一万人程度ではないのか? 少なくない予算をかけて、アーティストやディレクターが全霊をかけてつくったコンテンツがたったそれだけの人の目にしか触れないなんて、正直ありえないと思う。

 つまりは、 そのMV、誰に届けるつもりなの? という問いに尽きる。わざわざつくったコンテンツを、CDを売らんがためのおまけみたいな扱いにして、結局目に触れるのはせいぜい数万人。だなんて、ひどい話じゃないか。この曲をフルで聞きたい! と思ってiTunes Storeレコチョクで曲を買う人はたくさんいるだろう。しかし、MVとなると話はちょっと変わってくる。「フルバージョンはYouTubeで見れるので、DVDやCDは買いません」というリスナーが、必ずしも「ショートバージョンしか見れないの?! ならDVDやCDを買います」と言い出すとは限らない。MVを見る、という行為は、単に音楽を聴くよりも動機づけに欠くところがある。テレビで流れたり、YouTubeでさらっと見られる、くらいの敷居の低さがなかったら、わざわざ見ようなんて人は少ないように思う。

 繰り返すけれど、MVはごく小数の熱心なファンが見るだけのおまけコンテンツでいいのだろうか。僕はそうは思えない。そして、MVをより多くの人に届けるために有効なプラットフォームは、悲しいかな、YouTubeくらいしかないのだ。その場を日本のレコード会社は「ショートバージョン」という欺瞞で埋め尽くしているわけで、これは大きな損失だと思う。

 ただ、ここまで悪しざまにいってきた「ショートバージョン」だが、感心するものもなくはない。Jin-Machineの“†夏☆大好き!ヴィジュアル系†”という曲のMVのショートバージョンは楽曲として破綻がないように編集されているうえ、CDのコマーシャルとしての仕掛けもしてあって、ファンサーヴィスに余念がない。こういった細かいけれどささやかなファンへの目配せがあると、ちょっと買ってもいいかな、と思ってしまう(僕は音楽性がそんなにあわなくて買うほどまでには至らなかったけれど……)。

 まあこれは稀有な例だ。たとえばK-POPアイドルが新曲リリース前に大量のTeaserを投下して、がんがんバズらせているのを横目に見ると、やはりMVというコンテンツをどうやってプロモーションに結びつけるか、という点において日本の現状はあんまりよろしくないように思えてならない。

 関係ないがこのTeaserはジョンヨンが可愛すぎて死ぬまで見た。そして死んだ。