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ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

Oscar HudsonによるBonobo "No Reason" のビデオが手仕事炸裂の良作!

 Ninja Tuneからさきごろ新譜をリリースしたBonoboだが、彼のオフィシャルYouTubeチャンネルで公開された楽曲“No Reason”のビデオが素晴らしい。ディレクターはOscar Hudsonで、ロンドンを拠点に活動する若いディレクターだ。公式ウェブサイトによると、2016年にはuk music video awardsでBEST NEW DIRECTORを受賞しているそうで、評価も納得、これまでにもユニークビデオをたくさん撮っている。とりあえず、“No Reason”を見てもらおう。

 ビデオはマスクをして部屋着姿のひとり暮らしの男性が目を覚ますところから始まる。画面奥のドアを開くとまた同じ部屋があらわれ、もうひとりの自分に出くわす。するとそのまた奥のドアが開き、終わりの見えない無間地獄のような世界が立ち上がってくる。森見登美彦の『四畳半神話大系』にそんな似たような話があったっけな。奥に進むごとに部屋は次第に縮み、スケール感がどんどん混乱してくる。どん詰まりのドアが開くと男性が顔を覗かせ、ひとこと音楽にリップシンクをするとドアを閉じてしまう。カメラが一気に引いてゆき、曲のクライマックスにあわせて混沌が深まっていくのが印象的だ。

 最初に奥へどんどん同じ部屋が続いていくのを見たとき、てっきり部屋ひとつひとつを別に撮影してポストプロダクションで合成しているのかな、と思った。しかし、カメラが猛スピードで引いていくのを見て、これが実際にはワンショットで撮影されていることに気づいた。実際に同じ部屋を違う縮尺でつくったひとつらなりのセットがあり、その床を這うようにしてカメラが移動しているのだ。シンメトリーで消失点の低いカメラアングル、そしてカメラの移動スピードのマジックで、部屋の見かけ上の大きさを一定にしながら、まるで人やモノの大きさがめまぐるしく変化しているかのように見せているわけだ。

 同じくBonoboの公式チャンネルで公開されチエルメイキング映像で、実際のセットを見ることができる。撮影はアクションカムで行われ、事前に行ったシミュレーションにあわせたローテクな手仕事を炸裂させてあのワンショットを実現していることがわかる。

 ローテク・手仕事・ワンショット、というと、往時のミシェル・ゴンドリーの傑作MV群を思い出さずにはいられない。あるいは、野田凪の仕事とか。

 この監督のビデオはそうした先達のユーモアを彷彿とさせながら、どこか詩的な雰囲気を漂わせていたり、細かい演出に気が利いていたりとフレッシュな感触もある。たとえば、Darwin Deezの“The Mess She Made”は紙幣の肖像画に顔ハメして遊ぶというそれだけでは割りとありふれた着想を、ひとつひとつのカットのプレゼンテーションの巧みさで飽きさせることなく展開している。アイデアに頼りすぎないその姿勢が透けて見え、好感が持てる。

 あるいはGilligan Mossの“Choreograph”のビデオも、曲名をそのまま映像化した人力テクノという感じでおもしろいのだけれど、とりわけ唐突に時空を飛び越える予想外の展開にはちょっとしたポエジーを覚える。

 紹介しているときりがないのだが、One Night Onlyの“Plasticine”のビデオも良い。細かくは説明しないが、僕はとあるショットで本気で声をだして驚いてしまった。

 しばらくミュージックビデオをちまちまチェックすることから遠ざかっていたのだけれど、次のビデオが待ちきれない監督、というのを久しぶりに発見してしまった。うきうきだ。じゃないですか? ですよね。