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ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

Daniel Miller(Mute Records)のインタヴューとJace Clayton(aka DJ /Rupture)の講演を視聴した

AbletonのYouTubeチャンネルにLoopという2015年に行われたシンポジウムの模様がアップロードされていて(しかも日本語字幕付き)、ちょっとずつ見ているがどれもなかなかおもしろい。Mute RecordsのDaniel Millerへのインタヴューは、彼のA&Rとしての真摯な仕事ぶりやアーティストへの信頼と敬意が感じられてとても感銘を受ける。また、自身も作り手としてどんな哲学を持っているかを後半語っているのが興味深い。Liarsに与えたアドバイスのくだりなど、オリジナル・パンクの洗礼を受けたDIY精神溢れるエピソードといっていいだろう(39分50秒あたりから)。質疑応答の場面では、彼のプロジェクトであるSilicon Teensに関するエピソードも出てきて、大ファンのぼくとしては嬉しい限りだった。質疑応答を受けて最後に述べていた、アーティストが作品の流通に関してあまりにもGoogleAppleといったテック系の大企業に依存しすぎているという指摘には、あらためてちょっとぞっとしたりもする。ミラーが言うとおり、これらの大企業に比べたら、いわゆるメジャー・レーベルなんてものは、ちっぽけな存在でしかない。このあまりにも巨大な資本とアーティストはどうやって付き合っていったらいいのか、どういうオルタナティヴを確保していくべきか、ということを考えさせられる。

もうひとつ、DJ /RuptureことJace Claytonによるプレゼンテーション&ディスカッションもとてもおもしろかった。彼はモロッコなど北アフリカを訪れ、現地のミュージシャンと交流を深めてきた。その過程で一般的なDAWシーケンサー微分音や複雑なリズムを扱うことの難しさに直面したことから、彼はオリジナルのプラグイン・インストゥルメント“SUFI”を開発した。そのプロセスが、主要な話題のひとつだ。彼の物語から見えてくる、テクノロジーと伝統的な音楽との関係性の問題は興味深い。とくに、モロッコのベルベル人によるポップスにおいて、オートチューンによるケロケロ声がかなり早い段階から用いられていたことは衝撃的だ。実際にプレゼンのなかで音が聴ける(37分50秒あたりからその話題になるので、その周辺を見て欲しい)けれど、ちょっと想像を超えてくるものがある。オートチューンを通した高くよく通る声は、ベルベル人女性の理想的な声質であるらしく、このエフェクトはぼくらが想像するのとはまた違う意味を持って、圧倒的にモロッコの音楽シーンに普及したらしい。オートチューンは2000年代以降の、いわゆるミレニアル世代のポップスを象徴するエフェクトだと言って良いと思うが、それがアラブ世界でこのように受容され、当然のように使われている。テクノロジーは、このようにあっという間に浸透し、音楽のあり方を規定しなおしてしまう。だからこそ、ハードウェアやソフトウェアを設計するときには、もっと細心の注意を払うべきではないか、とクレイトンは言う。そのトーンは決してテクノロジーを断罪するものではなく、むしろ、テクノロジーとよりよく共存するためにはどのようなデザインが必要か、というエレクトロニック・ミュージックに携わる者ならではの未来志向に満ちていて、勇気づけられるものがある。

Claytonの話に関しては、2009年にFrieze,comに掲載された、Claytonによるオートチューンに関する文章を勝手に訳したので、記事を改めて紹介する。もう6年前の話だが、いまだにオートチューンは鳴り響き続けているし、ダナ・ハラウェイをひきながらClaytonが論じるように、それはまさしくシンガー/ラッパーの拡張された身体といって過言ではなさそうだ。