ただの風邪。

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Diplo、Rihannaに曲を一蹴された思い出を語る(※本題はそこではない)

f:id:tortoisetaughtus:20170809084200j:plain Charli XCXの“Boys”MVで犬と戯れるDiploの図

www.gq.com

 Coachellaに湧くアメリカを尻目にアフリカ・ツアーを行ったDiplo。彼に密着したルポ+インタヴュー記事が面白い。いまアフリカはたとえば南アフリカハウス・ミュージック“Gqom”であったり、あるいはアフロ・ビート(フェラ・クティのそれではなく、アフリカン・ダンス・ミュージック全般の意)が注目されはじめて、新しい文化のフロンティアとしての存在感を強めている。世界中のいわばヴァナキュラーなダンス・ミュージックにアンテナを伸ばし続けているDiploが現地に赴くのは必然ではある。

2015年に出たGqomのコンピレーションのプロモ・ミックス。ダークでベースの聴いた異形のハウス・ミュージック

 キャリア史上いちばんキツいレベルのプレイも経験したというこのツアーについて、インタヴュアーもけっこう突っ込んだことを聴き、Diploもわりにあけすけに本音を語っているから、読んでみると面白い。アフリカ各国のシーンや歴史に対するリスペクト、アフリカへの根強いステレオタイプに対する批判、はたまたEDMシーンとの距離の置き方などなど……。よくこんなハードワークができるものだと思う。働き者だ…… あと、なにげに堅実。「プライベートジェット使う金があったら子どもの学費にするわ」とかね。

 しかし、本筋とは別に、途中で出て来るRihannaとのエピソードが強烈だ。あのDiploでさえRihannaに一蹴されてしまうのか……という感じだ。抜粋してみよう。

GQ:スタジオ・セッションで自分が果たす役割ってどんなものだと考えてます?
Diplo:僕って別にこれが得意だってことがないんだ。例えばさ、この曲をさっき編集してたんだけど[ラップトップから曲を流す]、作業してればしてるほど「マジかよ、これはダサいぞ」って気分になる。プリセットをいじりながらずっと作業してたくはない。気分は「この町にはMr Eaziがいるんだ。アフロ・ビートを一曲やってみようじゃないか。Rihannaや誰かに使ってもらえるかもしれないぞ!」みたいな感じなんだけど。でも実際にここに座ってドラムを打ち込むだろ。クソみたいなもんだよね。
GQ:じゃあRihannaに曲を提供するとなったら?
Diplo:僕はとにかくMajor Lazerの曲に彼女を呼びたいんだ。彼女は僕らには手の届かないアーティストの一人だから。
GQRihannaとMajor Lazerはいい組み合わせに思えますけど。
Diplo:僕らが活動をやり尽くしてしまうまでには、一曲くらい彼女に参加してもらえると思う。きっとね。でも、もし実現しなくても気にはしない。“Lean On”を聞かせたときなんか、彼女は「私はハウス・ミュージックはやらないから」みたいな感じで。そのときは手で顔を覆ってかなりがっくりきた。また別の機会に彼女とセッションしたときがあったんだけど、Futureもそこにいたんだよね。The Weekndもいたし。まだ無名だったMetro Boominもいた。僕は会えるだけでハイになってた。Futureは彼女にもう700曲くらい聴かせていた。もう朝の四時だよ。しまいには僕も「一曲でも聴かせられないんだったら出てくぞ」ってなってさ。彼女に一曲聴かせたんだ。そしたら彼女は「なんだかどこかの空港で鳴ってるレゲエみたいに聴こえる」だって(笑)。僕はもう「ああ、もう死ぬしかない」って感じだったよ。

 怖い! 辛辣! 想像したくもない! Rihannaにようやく聴かせた一曲が空港のBGMだと言われたらそりゃ死にたくもなる。

 この画像がTwitterでまわってきたときも思ったけど、もはやビッチというか女王ですよ。うひゃー

KEXPでのJamila Woodsのパフォーマンスが非常に良い

 4曲のパフォーマンス中、2曲めの“LSD”(上掲)だけでもとりあえず聴いて欲しい。5弦ベースとギターだけのシンプルな編成でかなり聴かせる。

 昨年フリーでリリースされたミックステープ《HEAVN》もJagjaguwarから商業リリースされることになって注目を集めているJamila Woodsだけれども、良かれ悪しかれ存在感を主張しすぎない歌声だなーという印象があった(まあ、客演やコーラスでの参加を多く耳にしていたから、というのもあるのだろうけれど)。たとえばよく引き合いに出されるErykah Baduみたいに、声だけで楽曲全体を持ってっちゃうような力強さはあんまりない。

 けれど、KEXPでのパフォーマンスはスタジオ・ライヴならではのインティメイトな雰囲気とシンプルなアレンジもあいまって、彼女の歌声が持つ柔らかさや暖かさ、そこから生じる情感までストレートに伝わってきて、けっこう鮮烈に響く。音源よりも圧倒的にライヴ映えする人なのかしら。残りの3曲も是非聴いて欲しい。

 ついでに、先日シカゴで行われたPitchfork Music Festivalでのフルセットも公開されている。いまちょうどチェックしているところだけれど、やっぱり音源で聴くよりいいと思う。

ファイル共有サーヴィスのWeTransferがSoundCloud元従業員に資金提供の申し出

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pigeonsandplanes.com

 SoundCloud危機もひとまず様子見という段階に入ったところに面白いニュース。ファイル共有サーヴィスを提供するWeTransferが、この7月に解雇されたSoundCloudの従業員に向けて、1万ドル(約110万円)の資金提供を申し出た。SoundCloudは解雇した従業員の連絡先を、彼らの再就職を促す目的でGoogle Docsで共有しているそうだ。そこで入手した連絡先に、WeTransferのDamian Bradfieldからメッセージが届けられたという。Bradfieldによれば、この資金提供は「融資でも投資でもなく、贈与だ(not as a loan or an investment but a gift)」と言っていて、起業資金には程遠くても、ひとつのサーヴィスをかたちにするには十分な額ではないか、とのこと。

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 その詳しい経緯は上掲のBradfieldによるエントリに記されている。WeTransferはファイル共有サーヴィスであってクリエイティヴ・プラットフォームというわけではないのだけれど、その広告収入の30%を文化事業支援にあててきたそうだ。アートスクールでの奨学金、FKA Twigsのヴィデオへの援助、Kamasi Washingtonによるインスタレーションへの援助、ネットラジオ局の開設などなど、その活動は多岐にわたる。今回の資金提供の申し出は、その延長線上にある。

このいかれた考えのコアに隠されているのは、とても真剣なアイデアだ。私たちはイノベーションし続ける必要がある。誰でも――SoundCloudのスタッフたちも含めて――かつての従業員が大きなことに挑戦しようとするのを見届けたいと思っているんじゃないか。1万ドルでは完全に新しい会社を立ち上げるには不足だろうけれど、あるアイデア推し進めたり、なにかデザインしたり、デザインしてもらったりするには十分だ。iOSデベロッパーの友人をつかまえてMVP〔訳注:Minimum Viable Product、実用最小限のプロダクト〕を作ってもらうにも十分だ。私たちはそのプロダクトを紹介したり、スポットライトをあてることができるだろう。つまるところ、これってWeTransferが始まったきっかけと同じなんだ。

 SoundCloudから流出した人材を奪い合うのではなく、新しいイノベーションの種を撒こうというBradfieldの考えはとても興味深い。SoundCloudという企業に入ったからには、解雇された従業員にもそれぞれ自分なりの「音楽の未来」についてのアイデアがあったかもしれない。それをひとつでもかたちにできれば、大きな進歩が待っているのではないか? そうしたオプティミズムは個人的に大歓迎だ。なにより、この試みが文化事業支援と同じスピリットで行われている点が面白い。実際にこんなことで本当にイノベーティブで持続的な事業が生まれるかについては是非がわかれるところかもしれないけれど、パッと思いついたアイデアを即行動に移し、融資でも投資でもなくあえて「贈与」と言い切ってしまうBradfieldの無茶苦茶さは、あいかわらずほの暗い影を落とすSoundCloud危機にちょっとしたポジティヴさを差し込んでくれるように思う。