ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

KEXPでのJamila Woodsのパフォーマンスが非常に良い

 4曲のパフォーマンス中、2曲めの“LSD”(上掲)だけでもとりあえず聴いて欲しい。5弦ベースとギターだけのシンプルな編成でかなり聴かせる。

 昨年フリーでリリースされたミックステープ《HEAVN》もJagjaguwarから商業リリースされることになって注目を集めているJamila Woodsだけれども、良かれ悪しかれ存在感を主張しすぎない歌声だなーという印象があった(まあ、客演やコーラスでの参加を多く耳にしていたから、というのもあるのだろうけれど)。たとえばよく引き合いに出されるErykah Baduみたいに、声だけで楽曲全体を持ってっちゃうような力強さはあんまりない。

 けれど、KEXPでのパフォーマンスはスタジオ・ライヴならではのインティメイトな雰囲気とシンプルなアレンジもあいまって、彼女の歌声が持つ柔らかさや暖かさ、そこから生じる情感までストレートに伝わってきて、けっこう鮮烈に響く。音源よりも圧倒的にライヴ映えする人なのかしら。残りの3曲も是非聴いて欲しい。

 ついでに、先日シカゴで行われたPitchfork Music Festivalでのフルセットも公開されている。いまちょうどチェックしているところだけれど、やっぱり音源で聴くよりいいと思う。

ファイル共有サーヴィスのWeTransferがSoundCloud元従業員に資金提供の申し出

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pigeonsandplanes.com

 SoundCloud危機もひとまず様子見という段階に入ったところに面白いニュース。ファイル共有サーヴィスを提供するWeTransferが、この7月に解雇されたSoundCloudの従業員に向けて、1万ドル(約110万円)の資金提供を申し出た。SoundCloudは解雇した従業員の連絡先を、彼らの再就職を促す目的でGoogle Docsで共有しているそうだ。そこで入手した連絡先に、WeTransferのDamian Bradfieldからメッセージが届けられたという。Bradfieldによれば、この資金提供は「融資でも投資でもなく、贈与だ(not as a loan or an investment but a gift)」と言っていて、起業資金には程遠くても、ひとつのサーヴィスをかたちにするには十分な額ではないか、とのこと。

medium.com

 その詳しい経緯は上掲のBradfieldによるエントリに記されている。WeTransferはファイル共有サーヴィスであってクリエイティヴ・プラットフォームというわけではないのだけれど、その広告収入の30%を文化事業支援にあててきたそうだ。アートスクールでの奨学金、FKA Twigsのヴィデオへの援助、Kamasi Washingtonによるインスタレーションへの援助、ネットラジオ局の開設などなど、その活動は多岐にわたる。今回の資金提供の申し出は、その延長線上にある。

このいかれた考えのコアに隠されているのは、とても真剣なアイデアだ。私たちはイノベーションし続ける必要がある。誰でも――SoundCloudのスタッフたちも含めて――かつての従業員が大きなことに挑戦しようとするのを見届けたいと思っているんじゃないか。1万ドルでは完全に新しい会社を立ち上げるには不足だろうけれど、あるアイデア推し進めたり、なにかデザインしたり、デザインしてもらったりするには十分だ。iOSデベロッパーの友人をつかまえてMVP〔訳注:Minimum Viable Product、実用最小限のプロダクト〕を作ってもらうにも十分だ。私たちはそのプロダクトを紹介したり、スポットライトをあてることができるだろう。つまるところ、これってWeTransferが始まったきっかけと同じなんだ。

 SoundCloudから流出した人材を奪い合うのではなく、新しいイノベーションの種を撒こうというBradfieldの考えはとても興味深い。SoundCloudという企業に入ったからには、解雇された従業員にもそれぞれ自分なりの「音楽の未来」についてのアイデアがあったかもしれない。それをひとつでもかたちにできれば、大きな進歩が待っているのではないか? そうしたオプティミズムは個人的に大歓迎だ。なにより、この試みが文化事業支援と同じスピリットで行われている点が面白い。実際にこんなことで本当にイノベーティブで持続的な事業が生まれるかについては是非がわかれるところかもしれないけれど、パッと思いついたアイデアを即行動に移し、融資でも投資でもなくあえて「贈与」と言い切ってしまうBradfieldの無茶苦茶さは、あいかわらずほの暗い影を落とすSoundCloud危機にちょっとしたポジティヴさを差し込んでくれるように思う。

Richard D. James(Aphex Twin)とRob Mitchel(Warp Records創業者)のちょっといい話

aphextwin.warp.net

 先日、Aphex TwinことRichard D. Jamesが唐突に自身のほぼ全カタログを網羅する配信サイトをローンチして、もう未発表曲なんかも大盤振る舞いだったものだから各地で絶叫が巻き起こった。いやもう…… 盛りだくさんすぎて食べきれないよ……

 で、きょうもちらっとのぞいてみたら、《2 Mixes not for Cash》の項目にRichardからの解説が寄せられていた。もともとこのリリースは《26 Mixes for Cash》というリミックス集に収められていたもので、おそらく権利関係上このサイトにはセルフ・リミックス以外の楽曲は載せられなかったのだろう。で、その《26 Mixes for Cash》という人を食ったアルバム名の由来をRichardが明かしているのだ。

オーケー、古くからの質問についてはっきりさせておくことができてとてもうれしいと思う。このアルバムは実際には故・Rob Mitchell〔Warp Recordsの創業者のひとり、2001年に癌で他界〕が《26 remixes for cash》と名付けたものだ。僕がリミックスのギャラの支払いをどう受け取っていたかを彼に教えたら、こんな名前にするべきじゃないかって言われたんだ。
このリリースまでにやったリミックスでは、代理人かアーティスト本人とロンドンの中心部で会って現金でギャラを支払って貰っていたんだ、そうすれば誰にも僕の個人情報や住所が漏れないから。
ついでに言うと、Robは〔Polygon Window名義でリリースした〕《Surfing on Sine Waves》という名前を思いついた人でもあって、僕の知ってるコーンウォールの連中には丘サーファー1が多くて、ああいうのとつるんでたくないんだよね、って話をしたあとのことだった。

 つまり、ほんとにキャッシュでギャラをもらっていたから《~for Cash》だ、というわけ。単に金のためにやったリミックス集、ってだけの意味じゃなかったんだな。リミックス集がリリースされたのはRobの没後だから、この名前をつけるというのはある種の追悼たったのかもしれない。

 また、《Surfing on Sine Waves》というのはRichardのリリースのなかでは特別に詩的であり映像的なタイトルで印象的だったのだけど、これもRobが命名していたのか。命名の経緯は皮肉めいた笑いを呼ぶけれど、ちょっといい話だな、と思った。

26 Mixes for Cash

26 Mixes for Cash

Surfing on Sine Waves (WARPCD7)

Surfing on Sine Waves (WARPCD7)


  1. 原文ではposer surfersなので「サーファー気取り」とか「気取ったサーファー」とか訳したほうがよかったかも。でも面白いのでそのままにしときます。